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ボルドー便り vol.38
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本場ボルドー仕込み ワイン研究家 金子三郎氏 |
- ボルドーワインと星の王子さま - ![]() Le Petit Prince |
新緑の映える昼下がりの一時、陽光を浴びながら私と若きピアニストは向き合って数本のワインの瓶を前に真剣に議論しています。二人はなみなみと注がれた大きめのワイングラスをじっと眺めながら、この一時はワインにだけ集中し、それに合ったスタンダード・ジャズを選曲しようと身構えています。 といいますのは、私の主催する5月のワイン会で、<ジャズとワインのマリアージュを楽しむ>と題する初めての催しに二人で挑戦することになったからです。即ち、ジャズとワインを如何にうまくマリアージュ(結婚、組み合わせ)させると一層楽しく味わえるかの初めての試みです。若きピア ![]() ![]() 私の方は、はじめからある先入観をもって1本のワインを選択しました。そのワインは、シャトー・マルゴーの産地として有名なメドック地方マルゴー村の<シャトー・マレスコ・サン・テグジュペリ(Château Malescot St-Exupery)2002年>です。このワインは、ナポレオン3世がパリ万博の時につくらせた有名な1855年のグラン・クリュ(特級)格付けの3級です。3級などいうと何か3級酒のように感じてたいしたものではないように思われるかもしれませんが、それはおおいなる誤解でありまして、ボルドーの何千とあるシャトーの中から僅か61のシャトーだけが選ばれ、1級から5級まで格付けされた正にボルドーのエリート中のエリートなワインなのです。このシャトーの名前が示す通り、マレスコの名は17世紀末にこのシャトーを所有していたルイ14世時代の法務長官であったシモン・マレスコであり、もう一方の名は19世紀になってこのシャトーを買い取ったサン・テグジュペリ伯爵の名前です。この二人の名前が現在に至るもシャトー名として残されています。ところで、このサン・テグジュペリという名前に聞き覚えがありませんか。そうです、このシャトーを一時期所有していたのは、「星の王子さま」をはじめ「南方郵便機」、「夜間飛行」、「人間の土地」、「城砦」等の数々の名作を遺した作家、 ![]() 私は何とかピアニストに大好きなサン・テグジュペリの『星の王子さま』にまつわるようなジャズの名曲を演奏してもらいたく、かつてその先祖が所有していたシャトーであること、そしてマルゴー独特の豊かな香りと果実味を合わせもつエレガントなワインであることから、ロマン溢れる「星」や「王子さま」につながる名曲を選んでもらえないか恐る恐る尋ねました。彼はジャズ・ピアニストとして違うイメージをもって選曲を考えていたかもしれませんが、<シャトー・マレスコ・サン・テグジュペリ>の品格ある香りの高さに納得したようで、王子さまといえばこの曲 ![]() ![]() ![]() さて、二人でもう一度グラスを口に運んで、一口、二口含むと静かに噛みしめてから、グラスをテーブルに戻すと、やおらピアニストが最後の曲は『スタ ![]() もう一本のボルドーワインは<シャトー・パタッシュ・ドー(Chateau Patache d'Aux)2003年>です。このワインは1855年のグラン・クリュ(特級)格付けの次のクラスに相当するクリュ・ブルジョワ・スュペリュールといいます。エリゼ宮を訪れる世界の賓客に振舞われるワインのひとつとしても知られています。このシャトーはかつてアルマニャック伯爵の子孫であったオー(Aux)騎士団が小石混じりの街道を走った“Patache(乗合馬車)”を停らせた場所でもありました。今日、ラベルに描かれている一台の乗合馬車が当時の姿を伝えています。スタンダールのところでも述べましたように、当時は馬車に揺られる長旅の時代でもあり、旅人は一杯の美味しいワインで乾いた喉を潤したことでしょう。 ![]() 当日は、ボルドーワインの他にも美しいバラ色のシャンパン・ロゼとブルゴーニュのオスピス・ド・ボーヌの銘醸ワインにそれぞれ合ったスタンダード・ジャズの名曲の数々を奏で、その妙(たえ)なるピアノの調にワインと共に暫し酔いしれました。 「ワインとジャズのこの2つの組み合わせは、果たしてお口とお耳に合いましたでしょうか」と尋ねましても、読者の皆様にはワインも味わえないし、ジャズも聴けないままに味も素っ気もない文章のみの退屈な一時であったかと深くお詫び申し上げます。 ワインにはこのような楽しみ方もあるということだけでも知っていただければ幸いです。 |
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