本場ボルドー仕込み ワイン研究家 金子三郎氏 |
- シャトー訪問記(その7) - ![]() <シャトー・ラ・ミッション・オー・ブリオン> |
前回は<シャトー・オー・ブリオン>をご紹介しましたが、私がボルドー留学で初めて訪れた葡萄畑、<シャトー・ラ・ミッション・オー・ブリオン>をこのまま素通りするには忍びなく、ご案内をさせていただきます。 このシャトーは、国道を挟んで長年のライバル、<シャトー・オー・ブリオン>と対峙しております。初期の頃の正確な歴史は分かっていませんが、いっとき、ポンタック家が所有する<オー・ブリオン>の一部だったとの説もあります。独立した葡萄園としての<ラ・ミッション>の歴史は350年ほど前からはじまります。 名前の知られた<ラ・ミッション>の最初の所有者はレストナック家という一族でした。ブルボン王朝時代に政治の実権を握っていたリシュリューは<ラ・ミッション>を大層好んでおり、「神が酒を飲 ![]() ![]() その後、<ラ・ミッション>は5人の持ち主の手を経て、1919年にウォルトナー家の所有となりました。ウォルトナー家はユニークなワインをつくり続けてきました。というのも、その畑の一部からセカンド・ワイン的役割を果たす<シャトー・ラ・トゥール・オー・ブリオン>をつくり、また別の畑の一部から白ワインをつくって<シャトー・ラヴィール・オー・ブリオン>と名づけて市場に出していたからです。 そして1983年にこの3つのシャトーの買収に成功したのが、なんと隣の<シャトー・オー・ブリオン>のディロン家だったのです。ここに漸く300年来の夢であった4つのオー・ブリオンがひとつの所有者のもとに纏まったのです。これも運命の巡り合わせだったのでしょう。 この4つのシャトーは地つづきにあり、全て街中に取り囲まれているため、畑の気温は1度くらい高く、これは却って葡萄の成育には好ましい条件と考えられています。いずれも海抜25メートルほどのなだらかな丘の上にあり、厚い砂礫は水はけにすぐれています。ところが、この偉大な2つのワイン、<ラ・ミッション>と<オー・ブリオン>を飲み比べてみますと、道を一本隔てただけですが、個性に大きな違いがあることが分かります。前者は力強くて強烈な豊かさがあり、たっぷりのタンニンがあります。後者はより繊細で優雅で、より洗練されたワインになるのです。これもワインの面白いところです。 <ラ・ミッション・オー・ブリオン>はボルドー滞在中に何度か訪ねました。ご案内していただいたマダムが醸造学部の先輩であったこともあって、いつもご親切にしてくださいました。 ![]() ![]() 次は<シャトー・スミス・オー・ラフィット(Château Smith Haut-Lafitte)>をご案内しましょう。ラフィット(lafitte)は「頂上のなだらかな丘」を意味する中世時代のフランス語ですが、メドックの有名なシャトー・ラフィット・ロートシルトとは関係がありません。ただ、フランスの古語がlafitteと「t」がダブっていることに注目ください(vol.48をご参照ください)。ここの砂利の台地に葡萄が植えられたのは1365年といわれていますので、古い歴史を誇っています。1720年にスコットランド人のジョージ・スミスがこの畑を購入し、自分の名をつけて<スミス・オー・ラフィット>としました。でもワインが有名になったのは、1865年にボルドーの市長であったデュフール・デュベルジュの時代になってからで ![]() 小雪の舞 ![]() このシャトーには、「レ・スルス・ド・コーダリー(Les Sources de Caudalie」という素敵なホテル・レストランが併設されています。そして、ここはヴィノテラピーと称する、ワインの製造過程で生じる絞りかすを利用するエステティックが有名で、フランスで最も年を取らないと評判の女優、イザベル・アジャーニやカトリーヌ・ドヌーヴもお気に入りとか。効能あらたかなのでありましょう。妻と一度体験してみようと思っていましたが、とうとう実現しませんでした。でも冬の寒い日にここの重厚なバーで味わったヴァン・ショー(温かいワイン)の美味しさは忘れられません。 グラーヴ地区の最後は、レオニャン南部にある<シャトー・マラルティック・ラグラヴィエール(Château Malartic-Lagravière)>をご案内しましょう。1803年にガスコン村の名家、マラルティック伯爵の甥がこのシャトーを購入したことから ![]() 実はこのシャトーのオーナーのご子息夫妻がボルドー第2大学醸造学部のクラスメートでした。ご夫婦でいつも前の方に仲良く座って、熱心に授業を聞いていた姿が印象に ![]() いずれ若夫婦がオーナーとなって、このシャトーを更に飛躍させていくことでしょう。その時は是非訪れてみたいものです。ボニー君ご夫妻、頑張れ! |
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