さて、ホテルに荷をおろしPCのメールも無事開通し一段落したところで、次なる目的のフランス語学校の探訪を兼ねて入学手続きに出かけることにしました。まずはタバ(タバコ屋です。ここではタバコはもちろん新聞、雑誌の類からバスの回数券、テレフォンカード、絵葉書、文房具、アメ等なんでも売っている便利なところです)でバスの回数券を買いました。当時はまだ10枚つづりの回数券です(現在はカード式)。初めてバスに乗るので、どっちの方向にボルドー大学があるのやらさっぱり分りません。停留場で待っているご婦人にさっそく確かめたところ、向こう側のバス停ですよとおっしゃる。そこで向こう側のバス停に着いたバスの運転手にボルドー大学はこのバスでいいですかと尋ねると、それは向こう側だよと言う。また元のバス停に戻ると先程のご婦人が申し訳なさそうに間違えてしまいましたと、恥ずかしそうにバス停から離れていってしまいました。こういうちょっとした自尊心を壊されたときのフランス人の行動はこれからも何度も目にすることになります。なにかこちらの方が悪いことをしたような気になりました。
今度こそ乗ろうと2両連結のバスに乗り込み、先ほど買った回数券の1枚目を切って自動改札機に入れようとするが、これがいっこうに入らない。向きを変えて入れても入らない。横で見ていた可愛い女学生が見るに見かねたのか「ムッシュー、それは使えませんよ、切符を買わないと」と教えてくれました。たしかにタバコ屋の親父はバスの回数券と言ったらこの10枚つづりの切符をくれたのにおかしいな、帰りに文句を言ってやろう(後刻判明しました。わたしが一生懸命に検札機に無理やり突っ込もうとしていたのはタロンと書いてあって、それを切り取って次からが本物の切符であることが分りました。このはじめの一枚の切れ端は切符より少々大きなサイズになっていました。これでは検札機に入らないわけです)。
とにかく学生でいっぱいのバスに揺られて、ここだと狙いを定めた停留場で降りました。ところが停留場名が《大学通り》とあるのでてっきりこの辺と勝手に思い込んだのが間違いのはじまりでした。広い道のどちらへ行ったらよいのやらさっぱり分りません。前から歩いて来た男性に聞くも、第三大学、うーん分らないな。そこにいる学生に聞いてみたらと
言う。学生さんに尋ねると、ズーと向こうの方だよ、ここからはだいぶ遠いですよと言う。そこでズーと向こうの方へ向って歩きつづけました。しばらく行くと図書館らしきものがあったので中に入り受付のマドモワゼルに聞くと、まっさきに、車で来ましたかと尋ねられました。ノン、歩きですと答えると信じられないという顔をしています。地図を書いてくださいなと頼むも、遠くて書きようがありませんわ、とつれない返事です。なにしろあっちの方向よとのたまう。再びあっちの方に向って黙々と歩きつづけました。工事中のところが多く、前夜降った雨であちこちにできた水溜りをよけながらひたすら歩きつづけました。この大学には6万人もの学生がいるはずなのにどうしたことか広大なキャンパスには不思議と学生の姿を見かけません。フランスの大学はやたらと大きいのですね。
ようやく一人の学生さんが歩いてくるのを見つけ、いさんで飛んでいって聞くと、ここをまっすぐ行って、あの大きな建物のところを右に曲がって、またまっすぐ行くとすぐです。大きな校舎の横にある、白い建物ですと教えてくれました。皆さんのおかげで方向だけは間違っていませんでした、ヤレヤレ。かれこれ1時間以上歩いてようやく目的の学校に辿り着くことができました。なるほど白い瀟洒な建物のフランス語学校がそこにありました。裏手には背の高い松林があり、いくつかベンチが置かれています。なかなか雰囲気のよさそうなところです。いままでの疲れも吹き飛び元気が湧いてきました。さっそく学校に入り事務所で入学の手続きに来ましたと言うと、それは開講日に試験の後に行いますとのことでした。念のため滞在許可証の手続きはどこでやるのですかとたずねると、ボル
ドー市内に住んでいれば県庁ですよと教えてくれました。
すでに昼近くになっていたのでさっそく学食に入り、サンドイッチとコーヒーを頼み、学生さんたちと一緒に30数年ぶりに学生気分にひたってサンドイッチをほおばりました。安堵感とともになにかうれしくなってきました。それと学食の前には小さなぶどう畑が広がっているではありませんか。これには感激です。毎朝ここでぶどう畑をながめながらの一杯のコーヒーはさぞうまかろうとウキウキした気分になったものです。
ほとんど人通りのない寒風吹きすさぶ広大なキャンパスの中を、1時間以上もあてどなく一人とぼとぼとよく歩いてきたものです。大学近くのバス停で経路表示を見ると、さっき降りた停留所からここは7つも先でした。でも次からは間違いなくこの停留所「法学部、文学部前」まで来ることができるでしょう。バスに乗ると激しい雨が降ってきました。タイミングよし。このような珍道中をこれから何度演じることか・・・。
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