ボルドー便り vol.13

本場ボルドー仕込み ワイン研究家 金子三郎氏

 − 学食はたのしい! −


学食(後ろの建物は学生寮)

  ボルドー第三大学内にはいくつもの学食があります。まず朝は小さなぶどう畑の見える学食で畑を眺めながら一杯のコーヒー(デミタス・カップに淹れたエスプレッソ・コーヒー)を飲む、何とうまいことか。幸せな一時です。それにフランスのパン屋さんならどの店でも必ず置いてあるパン・オ・レザン(ぶどうパン。このパンをはじめクロワッサン、パン・オ・ショコラは美味しくてよく食べました。)をひとつ。このパンがとてもエスプレッソ・コーヒーに合うのです。しめて1.3ユーロ(約175円)と安い。昼は別のところにある学食で、長い長い行列に並び、入り口近くでプラスチックのお盆を取って、その上にナイフとフォーク、調味料(塩と胡椒)の小さな袋、ペーパー・ナプキンそしてコップを載せて、ようやく料理のあるところへ辿り着きます。フランス人はどこでも待つことには慣れているようで、ペチャクチャとおしゃべりしながら待つこと自体を楽しんでいるようにも見えます。
  ここの学食は「定食」(2.7ユーロ(約360円)、1年後に2.9ユーロ(約390円)に値上がり)と「ア・ラ・カルト」に分かれます。貼り出されたその日のメニューによってどちらに行こうか決めることになります。わたしは定食コーナーの方をよく利用しました。こちらの方が比較的空いていました。メインの料理一皿とパン(取り放題)と、どういうわけかコカ・コーラ(コーラ、ファンタ等)の飲み物がつきます。サラダやデザート類は追加料金を取られます。さすが食の国フランスだと思ったのは、この安い学食でも毎日定食のメニューが変わるのです。1ヵ月以上、毎日違った一皿が出てきたのにはびっくりしました。その一皿もボリューム満点です。粒の長いお米は野菜感覚でよく添えられていました。例えば大きなサーモンをソテーしたものにお米とブロッコリー、人参等の茹でた野菜がこぼれんばかりにお皿に盛り付けられてきます。すっかり顔なじみになった黒人のマドモワゼルはわたしの顔をみるとニッコリ笑って「ボンジュール、サ・ヴァ(こんにちは、お元気)?」と声を掛けてくれます。「きょうはお米よ」と言って、野菜感覚のお米をこれでもかといわんばかりにタップリと盛り付けサービスしてくれるのです。ところで、はじめの1年間、わたしの自炊生活はお米のご飯をはじめ日本食を一切食べずにやってきました。まわりの日本人からはよく平気ですねと感心され不思議がられたものです。この学食で野菜としてお米を食べていたから我慢できたのかもしれません。
  ア・ラ・カルトのコーナーは、主菜として魚が2品、肉が2品の中から、それと付け合せも熱々のフライド・ポテト(フリット)をはじめ数種類から選べます。ソースも2種類から選べます。ここの定番はbifteck(ビーフステーキが、日本ではビフテキ、フランスではビフテックとなります)。ビフテキとは贅沢だなと思われるかもしれませんが、これには問題点が3つあります。「切れない、噛めない、飲み込めない」の3拍子が揃っていることです。大きなビフテキを前にフォークとナイフでしばし格闘を演じ、それから口の中でも顎との戦いがつづきます。味は悪くはないのですがね・・・。このコーナーにはデザートをはじめ飲み物がたくさんあります。ワインの本場ボルドーですから、もちろん学食にもワインはあります。ア・ラ・カルトは料理の選択によって定食より高いこともあり、安いこともあります。食べ物を確保したあとは、今度は席探しがひと苦労です。大きな食堂も12時過ぎると学生でいっぱいになります。運良く友だちが座っているテーブルに空きがあると手を振って合図してくれます。
  一人のときは早目に行って、外のテラスでよく食べました。学食には弁当を持ってくる学生のために電子レンジも備わっています。日本や中国の女性はよく弁当を持ってきていました。水は自分で汲みにいってカラフ(水差し)に入れてきます。食べ終わったら大きな食器棚にプラスチックのお盆ごと返します。
  それにしても、学食の料金はどう計算したって材料費くらいしか賄えていないでしょう。調理人の人件費をふくめ、国が学生の食事のために支出している補助金は相当な額になると思います。食の国、フランスは食べることに関しては格別の力を入れているのですね。
  日本人の中には学食はおいしくないという人もおりましたが、わたしにとって熱々の一皿は結構おいしく、安くて大切な栄養源であります。今日はどんな料理かと楽しみでした。
  世界中のさまざまな人種の学生たちがいっせいに食事をしている光景は、それはそれは壮観でした。



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