ボルドー便り vol.25

本場ボルドー仕込み ワイン研究家 金子三郎氏

 - ボルドーの大学生(その2) -



ボルドーの書店<MOLLAT>


 ボルドーの大学生には喫煙者が多くてびっくりしました。特に女子大生がタバコの葉を薄紙で巻いて端をちょっと舐めて紙巻タバコをつくって吸っている姿がやけに目につきました。大学生のファッションのようでもありました。リセ(Lycée,高校)の前ではバスを待ちながら高校生も吸っている姿をよく見掛けました。当時、フランス政府は若年層の喫煙の多さを問題にし、新聞等で盛んに禁煙を呼び掛けておりました。
 それからバスやTGVに乗るとネコ(犬ではなく)をよく籠にいれて移動している女子大生が目につきます。学生寮もネコの飼育をOKしているのでしょうか。
 ところで、フランスは懐が深いなと思ったのは、外国の留学生に対してもアロカシオン(Allocation)といって住宅補助を出していることです。私は長期滞在型のホテル住まいでしたし、住宅補助を貰うには3年間無給であったことを誓約しなければならないので、残念ながらこの恩典には与ることが出来ませんでした。でも多くの留学生が月にかなりの補助をもらい随分と助かっていたようです。フランスの凄いところだなと感心したものです。日本はどうなっているか定かではありませんが、留学生を積極的に招くのであれば、大いに見習うべき点だろうと思います。
 フランスの学生は電車でもバスの中でも分厚い本を広げてよく読んでおります。でも日本と違い、漫画を読んでいる姿はついぞ見たことがありません。因みに、当時の世論調査によると、15歳以上の人は「文化活動の中で最も価値ある行為」として読書をトップにあげております。これは、2位の展覧会・美術館訪問を上回り、3位の新聞・テレビを大きく引き離しております。更に「頻繁に本を読む」と答えた人は全体の半数をはるかに超えているのです。つまり、読書を価値ある文化行為だと、知識人でなくても一般人が考えているのです。翻って、昨今の日本人の本離れ傾向をみると愕然とします。日本では、本を読む行為自体に価値をもつと考える人が残念ながら少数派になってしまっているのではないかと寂しい気になります。ボルドーの街中には<モラ(MOLLAT)>という大きな書店があり、いつも賑わっておりました。本の配置もスマートで、見やすく工夫を凝らしています。特に、ここのワイン書のコーナーはさすが本場だけあって大変充実しております。ボルドーワインを中心に一般のワイン書から醸造学の専門書に至るまで書棚にびっしりと並んでいて、眺めているだけでもうれしくなりました。足繁く通ったものです。親切な店員さんからは、「ムッシュー、今日はどんな本をお探しですか」とよく尋ねられました。
 それから学生は映画が大変好きです。学食にはボルドーの有名な映画館<ユートピア(UTOPIA)>(古い教会を映画館に改造したもので、なかなか味わいがあります)の上映パンフレットがいつも置いてありました。確か当時の入場料は3ユーロ(約400円)だったと思います。学生ならずともフランス人全体が映画好きですね。映画館の前にはいつも長い行列ができるほど依然として人気は高いです。ハリウッドの攻勢があるもののフランスは自国の映画に絶大なる自信をもっているようです。映画は文学・美術・演劇と並んで「第七芸術」と呼ばれていて大変尊敬もされていますが、テレビは興味の対象であっても、「第八芸術」とは決して言われていないようです。いつぞやのフィガロ紙(Le FIGARO)には一面を大きく割いて写真入で「タケシ・キタノ」監督についての論評が載っておりました。異国で同胞の人が高く評価されている記事を読むのはとてもうれしいものです。
 往き帰りの2両連結のバスは学生でいつも超満員です。その運転の荒っぽさは乗用車と同じで物凄いです。カーブでもスピードを落としませんから(大学に行くまでにカーブがまた多いのです)、座っていても手すりにしっかり掴まっていないと投げ出されてしまいそうです。なんでフランス人は乗り物となるとこうも傍若無人に乗り回すのでしょうか。それとバスで思い出しましたが、時たま検札が入ります。乗車券検札員は5、6人でドカドカと乗り込んできて一斉にチェックしはじめます。最初に出くわした時はてっきりパスポートのチェックかと思い、女子大生の目の前でお腹に巻いて大事にしまっておいたものを取り出すのは格好が悪いなと思っていましたが、それがこの乗車券の検札だったのです。ヤレヤレです。彼ら(中には女性もいます)は不正乗車を見つけたら最後いくら理由を述べようとも許しません。彼らは違反者を見つけてやろうとてぐすねを引いています。確かに、切符を買わない人は結構いますので厳しい取り締まりは当然でしょう。勿論不正者は後日多額の罰金を取られることになります。運転手の方は客が切符を買おうが買うまいがまったくおかまいなしです。これも夫々の自己責任のうちなのでしょう。
バス利用者以外はマイカー通学で、大学の大きな駐車場はどこもかしこも満員です。でも車の混雑は日本のようにひどくはありません。現在は,格好いい最新型のトラムウエ(Tramway,路面電車)が大学まで走っています。
 ボルドーの街中には新宿のような大きな歓楽街はありません。勿論バーやディスコはあり、駅前には怪しげな店も何軒かありましたが、総体的に健全な街だなとの印象です。全長1,200メートルもあって、ヨーロッパで最も長いといわれる歩行者専用のサント・カトリーヌ通りは、週末は勿論、平日の午後も歩けないほど混み合いますが、夜は商店街も早々に閉まってひっそりとしてしまいます。でも深夜バスが午前3時まで走っているところをみると何処かで明け方まで開いている店があるのでしょう。わたしだけが知らなかったのかもしれません。
 30数年ぶりの学生生活は総じて楽しい、私にとっては又とない貴重な体験となりました。ボルドーに感謝!




 


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