ボルドー便り vol.26

本場ボルドー仕込み ワイン研究家 金子三郎氏

 - ボルドーの犬 -




 フランス人は無類の犬好きです。ボルドーにも小型犬から大型犬に至るまで様々な犬がわがもの顔で歩いています。日本同様に老いも若きもペット熱は相当なものがあります。TGVの座席の下には大きなゴールデン・レトリバーが寝そべり、カフェやレストランのテーブルの下にも大型犬が横たわり、小さな犬が静かに椅子に座っています。カフェで何時間もおしゃべりをつづけているご婦人の傍にちょこんと座って、いつまでもおとなしく待っている犬をみると気の毒に思えてきます。ワンとかキャンとか鳴いてご主人に食べ物をおねだりするわけでもなく只管待ちつづけているのです。車の中にも、オートバイにも飼い主と一緒に乗っています。ボルドー一番の繁華街、サント・カトリーヌ通りにも人間と同じくらい犬が楽しそうに散歩しています。不思議と犬同士が喧嘩して大声で吠え合っている姿も見かけません。躾はちゃんと出来ているようです。わたしもパピヨンと言う小形犬を長い間飼っていましたが、ボルドーではあまり見かけませんでした。ある日家族連れで歩いている人たちを見ると可愛いパピヨンらしき犬が一緒に散歩しているではありませんか。うれしくなって思わずこの犬はパピヨンですかと尋ねると、ご家族の皆様はそれぞれパピヨンについて嬉々として語りはじめました。可愛いと言われるといずこも同じでうれしくなるものです。そうですか、あなたも日本でパピオンを飼っていたのですかと話しが弾みます。今は亡きわが家のパピオンのことをふっと懐かしく想い出したものです。
 ただ、犬で困ることは糞害です。ボルドーの街はいたるところでこのものが鎮座ましましているのです。うっかりしようものならグニャッと踏んづけてしまいます。これには全く困ったものです。ボルドーでは♪下を向いて歩こう♪です。
 あるひとこまです。エレガントなご婦人が大型のブランド犬を連れてお散歩の途中、こともあろうにケーキ屋さんの店先で犬が力みはじめ、そして路上に見事なまでの「作品」を残しました。呆気にとられて見ていますと、貴婦人はわたしと目が合うとにっこり微笑みそのまま犬を連れてお散歩をつづけたのであります!
 毎日早朝に清掃車が来て勢いよく水できれいに洗い流してくれるのですが、これではすぐに汚くなってしまうわけです。日本のように散歩する人がそれぞれ始末するような習慣がここにはないのですね。ただ、公園などには糞用のビニール袋が入り口に用意されています。パリのように早く罰則でも科して糞の始末をきちんとするようにしてもらいたいものです。ナントやリモージュなどの地方都市を歩いても道はきれいです。市長さん、一刻も早くボルドーの街を糞害から守って下さい。ワインだけでなくボルドーを観光地として発展していくためにも。
 それから街中で仕事もせずに大きなシェパードとかラブラドール・レトリバーを侍らせて、これらの犬のえさ代をせびっている耳にたくさんのピアスを嵌めてモヒカン刈りのおっかなそうなおにいさんたちがいます。彼らと一緒にいる犬たちは何となくすまなそうで情けない顔をしています。でも、フランス人はこういう人たちにもお金をあげているのです。このことは同様に飲んだくれていつも道端で酒瓶片手に横たわっている者にも、貴婦人然とした人や立派な紳士が身を屈めてこの飲兵衛たちに熱心に語りかけています。彼らの話を聞いて諭しているのでしょうか、そしてお金を恵んでいます。こういう光景はやはり困っている人には手を差し伸べるというフランス人のカトリック精神に拠るものでしょうか。日本ではあまり見かけない光景です。日本の留学生の中にはこんなことをするから彼らは働こうとしないのだと憤慨している者もおりました。
 犬に比べるとネコを外で見かけることは少ないように思いましたが、家の中にいるのでしょう。ただ、女子学生がバスや列車の中でネコを籠に入れて移動している姿はよく見ました。そういえばわがホテルの前の太ったおばあさんの家の庭には化け猫のような灰色をした大きなネコが一匹おりました。それとホテルにはいつもノソノソと歩いてわたしをギョロリと睨みつける野良ネコもおりました。時たま4階にある私の部屋の大きな窓の前を綱渡りのように歩いている姿を見かけびっくりしたものです。
 ボルドーの犬とちょっぴりネコにまつわる話です。





 


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