ボルドー便り vol.31

本場ボルドー仕込み ワイン研究家 金子三郎氏

 - ボージョレ・ヌーヴォただいま到着! -


 今年もボージョレ・ヌーヴォの季節が巡ってきました。日本では時差の関係でフランスよりも早く新酒が飲めるということで、11月第3木曜日(今年は16日)の解禁日はまた各地で賑わうことでしょう。でも、今から30年前に書かれたルネ・ファレ著『ボージョレ・ヌーヴォただいま到着(Le Beaujolais Nouveau est arrivé)』の小説を読むと、当時正式な解禁日は11月15日と決っていたようです。ところがこの日が日曜日や祭日に当たると、いかにもフランスらしく現地の人たちは「日曜日(祭日)はダメよ」とばかり働かないので、パリのバーやビストロは困り果て、現在のように11月の第3木曜日が解禁日となったようです。解禁日ひとつにもいろいろ歴史があるのですね。
 余談ですが、著者のルネ・ファレは、往年の映画ファンであればご存知の『リラの門(Porte des Lilas)』の原作者であり、有名なシャンソン歌手ジョルジュ・ブラッサンスの親友でもありました。
 ボージョレ・ヌーヴォはメディアに多分に煽られている感もありますが、初物好きの日本人の性格もあってか秋の風物誌として定着しつつあるようにも思います。「アサヒビールが行なったインターネットの調査によれば、今年のボージョレ・ヌーヴォを飲む、または飲みたいと答えた人は6割を超え、過去3年間で最も多くなった。また一人あたりの平均購入予定数は2.05本と昨年とほぼ同じだった」と報じています(11月6日付 読売新聞朝刊)。このように日本では一時のブームほどではないものの、ボージョレ・ヌーヴォの人気はいまだ健在です。ところが世界的にみるとボージョレ・ヌーヴォのバブルは完全にはじけたとはいわないまでも、徐々にしぼみつつあるようです。どんな流行でもいつかは過ぎ去るというのが世の常なのでしょう。   
 ボージョレ・ヌーヴォ自体はけっして高級なものでも、気取ったものでもなく、かつてはその殆どがボージョレ地方のすぐ南のフランス第2の都市、食の都といわれるリヨンの人たちの喉を潤すワインであったのです。古い諺で「リヨンには3つの川が流れている。ローヌとソーヌとボージョレさ」と言われるくらい、値段も安く、気軽に大量にリヨンの人々の胃袋に流し込まれていたようです。
 ガメイ種という葡萄からつくられるボージョレ・ヌーヴォは新鮮さが身上ですから早く飲むに限ります。そして、軽いワインなので喉が渇いていなくても、凝った料理がなくても気軽に飲めるので、ボージョレ・ヌーヴォはやがて世界中で人気を博し、愛すべきワインとなっていきました。日本でも、初めてボージョレ・ヌーヴォを飲んで以来、いろいろなワインに興味をもたれた人たちも多いのではないかと思います。そういう意味でボージョレ・ヌーヴォは新たなワイン文化を生み出したワインでもあるのです。
 ただ、ボージョレ・ヌーヴォを飲んだだけでボージョレを知ったつもりになるのは早計に過ぎるというものです。ボージョレにも、他の産地に引けをとらない立派な熟成ワインがあることを忘れてはならないと思います。ボージョレ・ヌーヴォがあまりにも有名になったために、本来のワインが忘れられてしまったのです。ワンランク上のボージョレ・ヴィラージュや最上級のクリュ・ボージョレのワインだと2,3年あるいはそれ以上もち、特に厚みと風格があってボージョレの王様といわれるムーラン・ナ・ヴァンとそれと対照的に女性的なまろやかさをもつ女王と呼ばれるフルーリ等があることをお忘れなく。
 今年のボージョレ・ヌーヴォは「アロマ、果実味、丸み(Des aromes,du fruit et de la rondeur!)」の3つの言葉が特徴になっているそうです(ボージョレワイン委員会 10/17プレスリリースより)。
 今回はちょっとボルドーを離れ、酒神バッカスからの季節の贈り物、ボージョレ・ヌーヴォのお話をしてみました。
 ボージョレ・ヌーヴォ2006年をお試しあれ!




 


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